連載エッセイ第6話|こどもとセカイ 「がっくんの寝かしつけ」
がっくんはお昼ごはんをあまり食べたがりません。「そろそろご飯食べよー」と誘っても、聞こえないふりをしたり、どこかへ走って行っちゃったり。
この日もがっくんは園庭で友だちと遊んでいました。ほとんどの子はもうお昼ごはんを食べています。
「もうほんとにそろそろ食べてよー」と保育者から声をかけられると、がっくんは「にげろー」と走っていってしまいました。近づいていって「そろそろご飯…」と私が言っても、聞こえないふり。
ご飯どころか、そろそろ昼寝の時間です。これはもうおしまいにしたほうがいいなと思い、がっくんを抱きかかえて部屋に入り、ホールの隅にある畳のスペースに落ち着きました。
がっくんはなにやらゴニョゴニョ言っていましたが、ご飯は食べそうにないなぁ…と思ったので、私は私で遊び始めることにしました。
空き箱がたくさん入っている棚から牛乳パックを出して並べて、ガムテープの芯を転がして倒してみます。がっくんはがっくんでトイレットペーパーの芯を出して「これ、ひこうじょう」といって作り始めました。
私はがっくんのお布団を部屋からもってきました。あわよくば?ここで寝てくれないかなぁと(ほんとはその前に昼ごはん食べてほしい)。
でもがっくんは「ひこうじょうをーつくりましょー」という歌まで歌い始めました。その歌を聞くうちに、だんだん私のほうが眠たくなってきました。それで、がっくんの布団にごろんと横になりました。「がっくんのだぞー」と言われましたが、さっきの仕返し?で聞こえないふり…。それに布団の半分は残してあるし…。がっくんは「ひこうじょうをー、つくりましょー」と歌っています。それが呪文のように眠気を誘います。
「ファンファンファン!」急にがっくんが大声でいいました。
「なんだよ、眠いのに」と私がいうと、「ねないようにサイレンならしたんだよー」とがっくん。
それからは「ひこうじょうをー、つくりましょー」と「ファンファンファン!」が交互に繰り返されました。私は何度も危ういところで起こされましたが、気がつくと隣でがっくんが横になっていました。
「ぼくのだいすきなめいちゃん(保育者)がやってきて、トントンしてくれないかなぁ」とがっくん。「えー、今日はもういいじゃん、おれで」「しかたないなぁ」というやりとりをしながら、二人で横になっていました。
とうとうその日、がっくんは昼寝をしませんでしたが、おやつのおにぎりは他の子より多めにもらって、むしゃむしゃと食べました。
ご飯早く食べてほしい、昼寝してほしいと思っていたおとなの(はずの)私。
それが、がっくんに寝かしつけられ、寝るのを止められ、気づいたら二人で横になっていました。
おとなは子どもがいるから「おとな」ですが、一緒にごちゃごちゃやっているうちに、その関係がほどけていくこともあります。それはそれで楽しいから、ま、いっかと笑って子どもと暮らしていきたいと思っています。
執筆 青山 誠
保育者。社会福祉法人東香会上町しぜんの国保育園施設長。保育の傍ら、執筆活動を行う。第 46 回「わたしの保育~保育エッセイ・ 実 践 記 録 コ ン ク ー ル 」 大 賞 受 賞 。 著 書 に 「 あ な た も 保 育 者 に な れ る (」 小 学 館 ) / 「 明 日 か ら の 保 育 チ ー ム づ く り (」 フ レ ー ベ ル 館 ) / 「 子 どもたちのミーティング~りんごの木の保育実践から」(共著・りんごの木)/「言葉の指導法」(共著・玉川大学出版部)