連載エッセイ第5話|こどもとセカイ 「ひとつおおきくなった、いおりくん 」

保育園では誕生日の子がいるとその日に誕生日のお祝いをします。
だれかが「きょうは、〇〇くんのおたんじょうびです。ホールにあつまってください」とみんなに声をかけます。そうすると、ぞろぞろぞろぞろホールに子どもとおとなが集まってきます。
全員ではありません。集まりたい人が集まり、遊んでいたい人は遊んでいます。でも毎回たくさんの子どもたちが集まります。集まったら「Happy Birthday to You」の歌を歌います。それからお誕生日の人に聞きたいことを聞きます。
「すきないろはなんですか」とか「すきなあそびはなんですか」とか「どんなしんかんせんがすきですか」とか。
最後に保育園のおとなからのメッセージが書かれた誕生日カードをもらいます。

もうすぐ、いおりくんのたんじょうびです。
いおりくんは保育室のカレンダーの、自分の誕生日のところにペンでぐるぐる丸を描きました。一日一日近づくたびに、数をかぞえました。
「あと3かいねたら、あと2かいねたら、あといっかいねたら…」
いおりくんは誕生日にいくつかやりたいことがありました。
・おなじクラスのおとなにおめでとうをしてほしい
・事務所にいる「くらたにさん」からお手紙がほしい
・部屋の奥のところにみんなあつまってもらいたい
・たくさんの子どもにあつまってもらいたい
とうとう、いおりくんの誕生日がきました。
いおりくんは大きな声で「ぼくのたんじょうびはじまるよー、みんなあつまってください」と言って回りました。それから部屋の奥のカーペットに台を運んできて、その上に立ちました。
ぞろぞろぞろぞろたくさんの子どもとたくさんのおとなが集まってきました。
くらたにさんもやってきて、「いおりくん、お誕生日おめでとう」といってメッセージカードをくれました。台の上から、いおりくんがみんなにむかって言いました。
「ぼくのすきなどうぶつは、ライオンです」
それからみんなで誕生日の歌を歌いました。
いおりくんがひとつおおきくなりました。
コロナ禍で以前ほど子どもと遠出ができなくなっている方もたくさんいることと思います。でも子どもの「うれしい」はおとなが思うよりも身近にあります。
必ずしも特別な場所や思い出を演出しなくても、子どもの「うれしい」を子どもとともに見つけていくのもいかもしれません。
執筆 青山 誠
保育者。社会福祉法人東香会上町しぜんの国保育園施設長。保育の傍ら、執筆活動を行う。第 46 回「わたしの保育~保育エッセイ・ 実 践 記 録 コ ン ク ー ル 」 大 賞 受 賞 。 著 書 に 「 あ な た も 保 育 者 に な れ る (」 小 学 館 ) / 「 明 日 か ら の 保 育 チ ー ム づ く り (」 フ レ ー ベ ル 館 ) / 「 子 どもたちのミーティング~りんごの木の保育実践から」(共著・りんごの木)/「言葉の指導法」(共著・玉川大学出版部)