連載エッセイ第4話|こどもとセカイ 「たーちゃんラーメン」
「あっ!いっしょにあそぼっ!」
保育室を横切ると、少し離れたところから声がかかりました。
よっ!兄ちゃん寄っといで!的な声かけです。振り向くと、たーちゃん(3歳)でした。
誘われるままついていくと、おままごとのコーナーに座らされました。
「じゃあ、ラーメンたべていこうね?」と、たーちゃん。
じゃあ?…まあ、はい、いただきます。ラーメン好きだし。
たーちゃんはせっせとラーメンを作り始めました。おままごとのキッチンについている蛇口をひねり、シンクに水をためている様です。そこへラーメン(ほんとは毛糸)をぶち込む。
豪快だなぁ。そういえばウチの母もよく洗い桶のなかで、しらたきを洗っていたなぁ。茶碗がまだ浸かっているのに。
ひょんなことから私が母を思い出している間にも、たーちゃんはテキパキと手を動かします。
「じゃあ…マーマレード、いれようね?んっ?」
ラーメンにマーマレード…まあ…はい。ほんとにおいしいんだろうな、とは思いつつも、たーちゃんの勢いにのまれて何も言えない私。
「ディズニーランドには、もういったの?んっ?たのしいね?ディズニーランド、んっ?んっ?」
いや、あの、そんな勢いで同意を求められても…
「あのーぼくはディズニーランドは、広いし、遠いし、あんまり好きじゃな…」
「んっ?こわいの?ディズニーランド」
「いや…怖くは…ないです」
「じゃあ、たーちゃんがパパとママといっちゃうよ?さんにんで。んっ?んっ?」
ええ、どうぞどうぞ。
やや強めの接客をしながらも、ラーメンを茶碗に手際よく盛るたーちゃん。茶碗は好きなものを選ばせてくれるという心遣いもあった。
「はーい、ラーメンできましたよー」たーちゃんがカウンターのむこうからラーメンを渡してくれます。
「ふふふ…はーい、ふふ、うんこでーす、いれておきましたー。ふふふふ」
あーあ、最後の最後に…でもこうなったらもう黙って食べるほかない。
そこへ、りっくん(1歳)がやってくる。食べたそうに私のラーメンをみて指を指しています。でもこれ、うんことマーマレード入ってるよ。
「子どもに遊んでもらいなさい」と新人時代、先輩に言われました。
どう遊ばせようか考えるより子どもの世界にお邪魔してごらん、そうすれば子どもがよく見えてくるから、と。
おとなは「正しいか正しくないか」で子どもを見がち。でも子どもの遊びの世界は楽しい!にあふれています。たーちゃんの「ふふふ」に一緒に「ふふふ」と笑いあえるおとなでありたいです。
執筆 青山 誠
保育者。社会福祉法人東香会上町しぜんの国保育園施設長。保育の傍ら、執筆活動を行う。第 46 回「わたしの保育~保育エッセイ・ 実 践 記 録 コ ン ク ー ル 」 大 賞 受 賞 。 著 書 に 「 あ な た も 保 育 者 に な れ る (」 小 学 館 ) / 「 明 日 か ら の 保 育 チ ー ム づ く り (」 フ レ ー ベ ル 館 ) / 「 子 どもたちのミーティング~りんごの木の保育実践から」(共著・りんごの木)/「言葉の指導法」(共著・玉川大学出版部)