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連載エッセイ第3話|こどもとセカイ 「ゆいちゃんの見えない友だち」

連載エッセイ第3話|こどもとセカイ 「ゆいちゃんの見えない友だち」

おままごとのキッチンに、ゆいちゃんがいました。おもちゃの包丁でブロックを切っています。とっても真剣な表情です。

ゆいちゃんは後ろを振り返ると、切った(つもりの)ブロックを見えない誰かに渡して言いました。

「にゃにゃにゃにゃ」

ゆいちゃんにはきっと見えている誰かさん。でもぼくにはさっぱり見えません。ゆいちゃんがなんて言ったのかもわかりません。ゆいちゃんは包丁を置くと、お人形を抱き上げてふろしきでぐるぐる巻きにしました。

「にゃにゃにゃにゃにゃ」

ゆいちゃんがお人形にむかって言いました。それから顔をあげて「さぁや!」と言いました。さぁやが部屋に入ってきたのです。

(さぁやは保育者で本当の名前は桜庭さんと言います)

でも少し離れていたため、ゆいちゃんの声はさぁやには聞こえません。ゆいちゃんはとことこ歩いてまた言いました。

「さぁや」

自分の名前を呼ぶ声が聞こえて、さぁやはあたりをきょろきょろ。

「さあや!」

ゆいちゃんがもう一度、大きな声でいいました。今度は聞こえました!さぁやは「ゆいちゃ〜ん!」と言って、ゆいちゃんをぎゅっと抱きしめます。ゆいちゃんもにこにこ顔でさぁやにしがみつきました。

さぁやから離れると、ゆいちゃんはみんながご飯を食べているちゃぶ台にいきました。

「はい、おてがみ。はい、おてがみ」といいながら、みんなにお手紙を配っていきます。でもゆいちゃんのお手紙はぼくにはやっぱり見えません。

「はい、おてがみ」ゆいちゃんにお手紙を差し出されると、あさなちゃんはご飯のお皿を自分のほうに寄せました。お昼ごはん取られると思ったのかな。ゆいちゃんはあさなちゃんをちょっとの間、不思議そうに見つめました。

それから自分のご飯をもらってきて、あさなちゃんの隣に座って食べはじめました。

なんてことのない日常の一コマ。でも子どもの世界ってなんて不思議なんでしょう。ゆいちゃんの見えない友だちはどんな人なんでしょう。

「にゃにゃにゃ・・・」ってなんて言ってたんでしょう。

なぜ見えない友だちには「にゃにゃにゃ・・・」で、さぁややあさなちゃんにはくっきりした日本語だったんでしょう。

見えないお手紙にはなんて書いてあったのでしょう。

おとなは意味や理屈で納得したいものです。だからときには「どうしてなの!きちんとわけをお口で言いなさい!」なんて子どもを問い詰めてしまいがち…。

でも子どもは心そのまま生きています。

見えない世界も見える世界も、さぁやも、あさなちゃんも、お人形も、見えない友だちも、全部「ほんと」で「だいじ」。意味より心で感じる世界です。

子どもの世界をちょっとでものぞけたら、ぼくらおとなももっと自由になれるかもしれません。

執筆 青山 誠
保育者。社会福祉法人東香会上町しぜんの国保育園施設長。保育の傍ら、執筆活動を行う。第 46 回「わたしの保育~保育エッセイ・ 実 践 記 録 コ ン ク ー ル 」 大 賞 受 賞 。 著 書 に 「 あ な た も 保 育 者 に な れ る (」 小 学 館 ) / 「 明 日 か ら の 保 育 チ ー ム づ く り (」 フ レ ー ベ ル 館 ) / 「 子 どもたちのミーティング~りんごの木の保育実践から」(共著・りんごの木)/「言葉の指導法」(共著・玉川大学出版部)