連載エッセイ第2話|こどもとセカイ 「木のぼり百景」
新しい保育園に木が植わりました。梅の木、さるすべり、エゴノキ。どれも木のぼりにちょうどいい枝ぶりです。ひっそりとした園庭で、木たちは子どもが来るのを待っていました。
入園式のあと、なみとくん(5歳)が部屋から飛び出してきて、いきなりさるすべりに飛びつきました。するするっとのぼって、高い枝からぴょんとジャンプ。見事に着地!
それを、とうすけくん(5歳)が見ていました。
「きみ、すごいね」とうすけくんが言いました。まだ名前も知らない間柄、木のぼりが挨拶がわり。子どもと子どもの出会いはこんなふうに始まります。
とうすけくんはそれから毎日木のぼりをしました。最初はおそるおそるでしたが、あっという間に高く登れるようになりました。ベビーバスを枝と枝の間にひっかけ、水をいれて木の上にお風呂をつくったこともあります。ジャンプして飛びおりるのもへっちゃら。
それを、れみくん(3歳)が見ていました。
れみくんは高い木には登れないので、背の低い梅の木にしがみつくところからはじめました。毎日繰り返すうちにだんだん手をかけ、足をかけ、枝の上に立つことができました。やがて背の高い木にも登れるようになりました。
そんなある日のこと…。
「うわーん」木の上から泣き声が聞こえてきました。れみくんがエゴノキの高い枝にひっかかって泣いています。れみくんはふろしきをマントにしたまま木に登って、枝に引っかかってしまったのです。れみくんはちゅうぶらりん。
野崎さん(保育者)があわててハシゴをもってきて、れみくんを抱きおろしました。れみくんはぎゅっと野崎さんに抱きつきました。
それを、ゆりちゃん(3歳)が見ていました。
ゆりちゃんはさるすべりに登りました。ゆりちゃんは木のぼりが得意。どんどん登っていきます。高いところまでくると、ゆりちゃんが小さな声で言いました。
「たすけてー」。
あさみさん(保育者)が近くにいました。
「どうしたの」
「おりれらなくなっちゃった」
「ゆりちゃん怖くなさそうだけど…」とあさみさんは思いつつ、木に登って手を
伸ばしました。でもちょっと届きません。
「ここまでおりてこられる?」あさみさんが聞くと、ゆりちゃんはするするっとおりてきて、あさみさんに抱きつきました。ああ、よかった!
子どもは子どもを見ています。子どもは子どもの間で育っていきます。そして木のぼりひとつにも、子どもたちのいろんな気持ちがあふれます。
木があるから登ってみる。ジャンプしてみる。その姿に「すごい!」と驚く。自分も木に登ってみる。
ときにはちょっと怖い思いもする。怖い思いをしたあとにぎゅっと抱きしめてもらえる「安心」がある。自分もあんなふうに抱っこされたいと思う。
「木のぼりは危ないから禁止」なんてもったいない。
執筆 青山 誠
保育者。社会福祉法人東香会上町しぜんの国保育園施設長。保育の傍ら、執筆活動を行う。第 46 回「わたしの保育~保育エッセイ・ 実 践 記 録 コ ン ク ー ル 」 大 賞 受 賞 。 著 書 に 「 あ な た も 保 育 者 に な れ る (」 小 学 館 ) / 「 明 日 か ら の 保 育 チ ー ム づ く り (」 フ レ ー ベ ル 館 ) / 「 子 どもたちのミーティング~りんごの木の保育実践から」(共著・りんごの木)/「言葉の指導法」(共著・玉川大学出版部)